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マスクショップにおけるMESの運用:フォトマスク製造における主要なマイルストーン(全4回の第3回)

重要なマイルストーンは、マスクショップと顧客それぞれの懸念事項に対応するよう設計されています。
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前回のブログ「マスクショップの経済性の概要」にて、レチクル製造における多くの課題、特に「常に完璧なレチクルを期日通りに製造・出荷すること」に焦点を当てて解説しました。

マスクショップ内では、レチクル製造の効率性と顧客の納期期待に応える能力を把握するために、重要なマイルストーンを追跡することが不可欠です。
最終的な目的は、工場の高い生産効率、製品品質、そして顧客満足度を確保することです。

マスクショップにおけるマイルストーンは、大きく「注文中心型」と「製造中心型」の2つに分類されます。

注文中心型マイルストーン

注文中心型マイルストーンは、顧客の視点に基づいて設計されています。
レチクルの製造プロセスは、顧客からの注文がマスクショップに届き、製造実行システム(MES)に「注文受領日(Order Received Date)」として記録されるところから始まります。

注文には、契約上の出荷期限(Contract Shipping Deadline)や顧客指定の出荷希望日(Requested Shipping Deadline)などの重要な日程が含まれており、これらは契約義務と、ウェーハファブでレチクルが必要となる具体的な日付(ウェーハ製造ニーズ日)に基づいた特別な顧客要求の両方に対応します。

また、製造仕様書も注文に添付されており、最終製品の品質を保証するための処理許容値や制限が記載されています。

注文とともに届く最も重要な情報は、レチクルパターンを定義する設計データです。
このレチクルデータファイルは数ギガバイトに及ぶことがあり、先端マスクでは1テラバイトを超える場合もあります。

商用の高速ネットワークを使用しても、マスクデータの転送には数時間かかることがあり、特に複数のデータ転送が同時に行われている場合はさらに時間がかかります。
データ転送が完了すると「注文開始日(Order Start Date)」が記録され、ここからサイクルタイムの計測が開始されます。顧客の視点では、この時点以降はすべてマスクショップの管理下にあると見なされます。

サイクルタイムは、完成したレチクルがマスクショップから出荷された「注文出荷日(Order Ship Date)」で終了します。

マスクショップと顧客の間では、サイクルタイムの定義について意見が分かれることがあります。顧客は、マスク注文を送信し、レチクルデータの転送を開始する「Go」ボタンを押した時点から、完成したレチクルが自社工場に届くまでをサイクルタイムと考えます。

しかし、マスクショップ側では、データ転送時間は顧客のレチクルデータサイズや通信帯域に依存するため、管理外とされます。また、UPSやFedExなどの配送業者による物理的な配送時間もマスクショップの管理外であり、サイクルタイムの範囲外と見なされます。

製造中心

製造中心型マイルストーンは、マスクショップの製造工程、つまりマスクショップが管理可能な範囲に焦点を当てています。

顧客からのデータ転送が完了すると、設計データは「フラクチャー(fracture)」と呼ばれる処理を受け、マスクショップのパターニング装置に適した形式に変換されます。このフラクチャー処理にも数時間かかることがあり、「フラクチャー開始日(Fracture Start Date)」と「フラクチャー終了日(Fracture End Date)」が記録されます。

フラクチャー処理が完了すると、変換されたデータは製造工程の最初の装置(レチクルパターンをマスクブランクに書き込む装置)に転送され、物理的な製造が開始されます。

ただし、すぐに処理が始まるわけではなく、先に受け付けた注文の処理が完了するまで待機する必要があります。この待機時間は「ライトキュー時間(Write Queue Time)」と呼ばれ、先端マスクの製造では数時間から数日かかることもあります。

最初の製造ステップが開始されると「製造開始日(Manufacturing Start Date)」が記録され、製造サイクルタイムの計測が開始されます。マスクショップの視点では、この時点以前の工程(データ転送、フラクチャー、ライトキュー)は管理外であり、製造効率の評価には含まれません。

各レチクルの製造ライフサイクルでは、「Track-In日」と「Track-Out日」が各工程の開始と終了を示し、「処理開始日(Processing Start Date)」と「処理完了日(Processing Complete Date)」が物理的な処理の開始と終了を記録します。

レチクルは前工程の完了を待つ必要があり、「Track-In日」と「処理開始日」の間がキュー時間です。各工程における平均キュー時間の変化は、特定の工程が「ボトルネック」になっている可能性を示すものであり、製造部門と技術部門による装置の稼働状況の監視と対応が求められます。

「製造開始日」から「製造完了日(Manufacturing Complete Date)」までが製造サイクルタイムであり、この平均時間はマスクショップの運用効率を示す重要な指標です。短いほど効率が高いとされます。

最後に、出荷期限(Shipping Deadline)は、契約上の出荷期限と顧客指定の出荷希望日のうち早い方が適用され、マスクショップの生産計画に基づいて、顧客の工場に到着するように出荷されます。「出荷日(Ship Date)」は、マスクが配送業者に引き渡された日として記録されます。

マイルストーンの監視と管理

各レチクルのマイルストーンを監視・管理することで、安定した納期遵守が可能になります。また、これらのマイルストーンを長期的に監視することで、マスクショップ全体の健全性や製造効率の指標となり、改善のための重要な洞察が得られます。

製造実行システム(MES)は、製造プロセスに関するリアルタイムデータを提供し、各マイルストーンやその他の製造指標を正確に記録・可視化することで、プロセスフローの最適化、サイクルタイムの短縮、全体効率の向上を支援します。

さらに、MESはマスクショップ内の関係者間のコミュニケーションを促進し、全員が生産目標と納期に対して共通認識を持つことで、顧客期待に応える体制を構築します。

筆者について

Picture of Dan Meier (MES戦略ディレクター)
Dan Meier (MES戦略ディレクター)
Dan氏は、製造業における約30年の運用および管理経験を持つ熟練のプロフェッショナルです。製造の最適化、品質管理システム、分析、財務モデリング、工場の自動化、製造ソフトウェアシステムに関する豊富な知識と経験を有しています。Dan氏は、ジュリアード音楽院で音楽の学士号および修士号を取得しており、さらにニューメキシコ大学で電気工学の理学修士号と経営学修士号(MBA)も取得しています。
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