本ブログの内容
マスクショップは半導体業界において極めて重要な役割を担っています。
フォトマスク(レチクル)の製造は、少量生産かつ職人的な工程であり、注文される各レチクルは固有の仕様を持ち、それぞれ異なる製造課題を抱えています。
大量生産される半導体デバイスとは異なり、マスクショップにはスケールメリットが存在せず、同一製品を繰り返し製造することで得られるプロセス学習も期待できません。
この「一品一様性」と「顧客からの完璧な品質要求」が、マスクショップのビジネスモデルを独特かつ予測困難なものにしています。(マスク製造とウェーハ製造の主な違いについては、第一回の記事をご覧ください。)
完璧さのコスト
マスクショップとウエハファブの両方において、高額な製造装置とそれに伴う減価償却費が主要なコスト要因です。
しかし、ウエハファブでは統計的サンプリング手法を用いることで、多くのロットが計測や検査工程を省略でき、高品質を維持しつつコストを抑えることが可能です。
一方、マスクショップでは、すべてのレチクルに対して寸法検査や欠陥検査を実施する必要があり、これが設備投資と減価償却費を増加させる要因となっています。
製造中に欠陥が見つかったレチクルは修復可能な場合もありますが、これには専用の修理装置が必要であり、コストとサイクルタイムが増加します。
修復不可能なレチクルは廃棄され、新たな製造を開始する必要があります。
この場合、追加のマスクブランク(未加工のフォトマスク基板)が必要となり、一般的なマスクで数百ドル、高度なEUV(極端紫外線)レチクルでは数万ドルの材料費が発生します。
サイクルタイム
製造サイクルタイムもマスクショップのコストを左右する重要な要素です。同じ技術ノードであっても、各レチクルの仕様が異なるため、サイクルタイムには大きなばらつきがあります。
マスクショップは、過去の類似プロセスの履歴に基づいて見積もりサイクルタイムを提示できますが、実際のサイクルタイムは「完璧なレチクル」が完成するまでの試行回数によって大きく変動します。納期を超過した場合、顧客への遅延を最小限に抑えるために、迅速な配送費用を負担する必要が生じることもあります。
重要顧客からの緊急オーダーに対応するため、マスクショップは複数の製造試行を並行して開始するというリスクを取ることがあります。この方法は、どれか1つが早期に完成することを期待するものですが、材料費が増加し、装置の処理能力を圧迫するため、全体のキャパシティが低下します。
さらに、サイクルタイムには、マスクデータの転送時間、製造前のデータ準備時間、製造後の出荷遅延など、マスクショップの管理外にある要因も影響します。これらもサイクルタイムを大幅に延ばす可能性があります。
製品の構成
キャパシティは、歩留まり、装置数、処理時間、プロセスステップ数、ウエハファブではウエハあたりのダイ数など、複数の要因によって決まります。これらのパラメータを最適化することで、キャパシティと収益の向上が可能です。ウエハファブでは、製造数が多く製品種類が少ないため、この最適化が有効に機能します。
しかし、マスクショップでは「製造数」よりも「製造するレチクルの種類」がキャパシティに大きく影響します。一般的に、レチクルには「バイナリ型」と「位相シフト型」の2種類があります。バイナリレチクルは構造が単純で、プロセスステップが少なく(位相シフト型の1/3以下)、歩留まりも高いため、製造効率が良好です。
一方、位相シフトレチクルは複雑で、製造ステップが多く、歩留まりも低いですが、販売価格はバイナリ型の最大20倍にもなります。このため、収益性を考慮すると、位相シフト型のみを製造した方が利益が大きくなる可能性があります。
予測困難な需要
MES(製造実行システム)の役割
製造実行システム(MES)は、マスクショップが求める高いパフォーマンスと効率性を達成するために不可欠です。MESはリアルタイムのデータとインサイトを提供し、意思決定の質を向上させ、製造プロセスの効率的な管理を可能にします。
高度なMESを活用することで、スケジューリングや装置の稼働率を最適化し、サイクルタイムを短縮し、歩留まりと効率を改善することができます。これにより、マスクショップは顧客の高い品質と納期要求に応える能力を強化できます。